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量子計測領域研究室では、独自の光・超音波計測技術を用いて物質科学・生命科学の幅広い分野にまたがる研究を行っています。1つの重要なキーワードは共鳴です。共鳴現象においては、力学情報・電磁場情報が増幅されるため、通常では観測できない重要な物質内部の情報を得ることができます。音(超音波)で光を制御し、また、光で音を制御して、独自の共鳴計測装置を開発し、ナゾの多いナノ物質や生体分子のキネティクスの本質を探求しています。また、独自の計測技術を基として、携帯電話等の通信機器に使用される次世代音響電子デバイスの研究や、診断・創薬に貢献する光・超音波医療機器の開発を行っています。
近年、様々な機能性薄膜やナノドット・ナノワイヤなどのナノ構造体が開発され、携帯電話などの通信機器や高感度センサー等の革新的発展に寄与しています。これらナノ構造体の力学的性質の把握はデバイスの設計において非常に重要であり、特に、弾性定数という物性値は、携帯電話に使用される共振電子デバイスにおいて最も重要な設計因子です。ところが、代表寸法がわずか数十nm~数百nmという物質の弾性的性質を計測することは従来法では極めて困難です。私たちは、極短パルス光を用いて超高周波の超音波(~500 GHz)をナノ構造体内に発生させ、超音波による光の回折現象を利用して、ナノ構造物の弾性定数を計測し、ナノメカニクスを探求しています。
ガンや神経変性疾患等の多くの疾患の発症に伴い分泌される特定の蛋白質やRNA(バイオマーカー)が次々と特定されています。血中や尿中に漏洩したこれらバイオマーカーを検出することにより、疾患の早期発見が可能となります。また、各疾患の原因となる蛋白質等の標的が特定されれば、それと親和性の高い(治療効果の高い)抗体や核酸を見出すことにより効果的な治療につながります。この際、薬剤候補物質と標的間の親和性を正確に測定する必要があります。私たちは、バイオマーカーを高感度に検出し、かつ、生体分子間の親和性を正確に決定することのできる革新的なフォノンバイオセンサの開発を目指しています。
弾性定数は物質に力が加わったときの変形の仕方を定める量です。電子デバイスから陸橋等の大型構造体に至るまであらゆる構造物の設計に必要な量です。物質には独立な弾性定数は複数存在します。例えば、パワーデバイス用半導体として期待されている酸化ガリウムは13個の弾性定数を有します。私たちは、米粒ほどの結晶からこれら全てを決定する計測法を開発しています。図6に示すように、針状のセンサーに試料を乗せて、試料の共振周波数を計測します。大量の共振周波数には、全ての独立な弾性定数の情報が含まれており、これらから逆計算により全ての弾性定数を決定することができます。極低温・高温環境下において弾性定数を計測し、材料科学・通信デバイスへの決定的な貢献を目指しています。
アルツハイマー病などの認知症は、特定の蛋白質が脳内で凝集し神経細胞毒性を発することにより発症すると考えられています。私たちは、特定の周波数の超音波照射がこの凝集反応を飛躍的に加速することを見出しました。また、超音波刺激下で凝集反応をリアルタイムに観測する新しい蛍光顕微鏡を開発しています。さらに、これらを応用した認知症の早期診断装置開発を行っています。
図8は、光ファイバの先端から出てきた光を利用して、直径200mmの凹面鏡の表面形状を、nmレベルの高精度で計測した結果です。微細な光ファイバ先端から出た光は、真球面とみなせるほど精度の高い回折球面波として広がります。この光を参照波面として用いた干渉計(Point Diffraction Interferometer: PDI)により、球面ミラーがどれだけ正確に球面加工されているか、サブnmオーダーの精度で計測できます。この高精度なPDI干渉計を使えば、放射光施設や重力波検出装置で用いられる最先端のミラーの計測、評価が可能となります。