完全表面を創る −新しい加工プロセスの開発−
原子的に平滑な自由曲面の創成
EEM(Elastic Emission Machining)
プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)
大気圧プラズマCVD(Atmospheric Pressure Plasma Chemical Vapor Deposition)
原子スケール構造の創成
電磁波を用いたナノストラクチャー形成プロセス
固体表面上での原子制御プロセス
加工プロセスの計測と制御
大気圧・高周波プラズマの計測と制御
原子的に平滑な自由曲面の創成
EEM(Elastic Emission Machining)
EEMは固体表面間の化学反応を利用した超精密加工法です。加工物と反応性のある微細粉末粒子を超純水の流れによって加工物表面に供給します。このとき加工物表面との間で化学反応が生じ、引き続き超純水の流れから受ける抵抗によって、粉末粒子が加工物表面から取り除かれる際、加工物表面の原子が粉末粒子によって持ち去られることによって加工が進みます。原子単位の加工現象を利用した本加工法は、完全表面の創成に向け、最も大きな可能性を秘めています。
本研究では、X線光学素子など様々な超精密加工部品への適用が計画されています。また、加工プロセスに影響を与える可能性のある、加工液中の不純物や有機物コンタミネーションなどを極限まで低減することによる徹底した本加工法の高性能化や、より高い加工能率を得るための基礎研究ならびに応用技術開発が、これからのテーマです。
これまでに本加工法では、半導体を始めとする多くの機能材料の表面加工に応用され優れた加工特性が実証されています。例えば、平成4年に打ち上げに成功したH-Uロケットの姿勢制御用レーザージャイロスコープの共振器ミラーの製作にも応用され世界最高の性能を発揮するなど、この技術の純国産化にも大きく貢献しました。
上図は、EEMによって加工されたシリコン単結晶(100)表面をSTMによって観察した結果です。比較のため、現在の超LSI用シリコンウエハーの表面も示しています。EEMによって加工された表面には1〜2原子層の凹凸しかなく、次世代の超々LSIデバイスの高性能化に大きく貢献することが期待されています。
上図は、粉末粒子の供給位置を制限し、加工物上の各点での加工量を制御することによって任意形状の創成が可能なNC(Numerically Controlled )EEMによって、λ/100のオプティカルフラット上に球面形状加工を行なった例です。形状精度0.01μm以上が得られ、シンクロトロン放射光用のミラーなど、極めて高い面粗度と形状精度が同時に要求される分野への応用が期待されています。
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プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)
プラズマCVMは、1気圧という他に類を見ない高圧力雰囲気下において高密度のプラズマを発生させ、そこで生成した中性のラジカル分子を試料表面原子に作用させて揮発性の物質に変えることで除去を行う化学的な気化加工法です。
本加工法は原理的に加工変質層を作らないだけでなく、極めて高い加工能率と形状加工能力を併せ持つため、最終仕上げ加工であるEEM用の前加工面を高能率に作製することができます。また、NC制御による形状加工,切断加工,ポリシング加工など任意の加工形態をとることが可能であり、従来の機械加工に置き換わる新しい高能率無歪加工法として位置付けることができます。
現在放射光用X線ミラー,ステッパー用レンズ,次世代大口径半導体ウエハ等の極限的な精度が要求される加工に取り組んでいます。
上図は原子レーザー法で用いるレーザービーム整形用非球面ミラーをNC制御によるプラズマCVMで作製したものです。原子レーザー法でウランの同位体分離を行うには、分離反応および回収の効率を上げるためにレーザービームの形状を矩形に整形し、強度分布を均一にする必要があります。本例では12mm角内に最大深さ3μmの形状加工を行い、その目的を達成していますが、この様な加工は従来の機械加工では不可能であり、プラズマCVMにより初めて実現することができました。[(財)電力中央研究所,(株)ニコンとの共同研究]
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大気圧プラズマCVD(Atmospheric Pressure Plasma Chemical Vapor Deposition)
完全表面を創成するためには、加工対象物の構造は均質であることが重要です。単結晶あるいはアモルファス材料は、多結晶材料とは異なり粒界段差を生じないため、化学的なエッチング作用を加工原理とするEEMおよびプラズマCVMにとって適した材料です。製造プロセスのことを考えると、アモルファスを用いるのが現実的ですが、高い加工能率を持つプラズマCVMに見合った成膜速度で、任意のアモルファス材料を作製する必要があります。
本成膜法は、プラズマCVMと同じく大気圧・高周波プラズマによって高密度に生成される反応種を利用した、全く新しいプラズマCVD法です。本成膜法を用いれば、従来技術の100倍以上の成膜速度で任意材料の機能薄膜を形成することが可能です。放射光ミラー用材料としてのアモルファスSiC膜や太陽電池用アモルファスSi薄膜などの成膜に応用されています。
上図は、放射光用のミラーをターゲットとした完全表面創成の一例です。大気圧プラズマCVDによりアモルファスSiC膜を成膜した後、プラズマCVMによって形状加工を行い、EEMにより完全表面に仕上げます。
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原子スケール構造の創成
電磁波を用いたナノストラクチャー形成プロセス
完全表面は、欠陥の無い機能材料を創成するための基板として理想的な表面です。完全表面を元に、原子スケールで制御されたナノストラクチャーを形成することによって、高性能な量子効果デバイスなどへの応用が期待できます。ここでは、正確な周期性を有する量子ドット、量子細線などのナノストラクチャー形成プロセスとして、電磁波の干渉パターンを用いた手法を開発します。現在、二準位原子に共鳴する波長のレーザー光を用いて原子を操作し、レーザー干渉パターンに沿って原子を並べるための基礎技術を開発しています。下図は、2方向から干渉させたレーザーパターンを用いて、半導体量子ドットを作製するイメージを示しています。
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固体表面上での原子制御プロセス
物質・材料の構造を究極的な精密さで加工あるいは制御するためには、原子を一個の単位であたかも指先で摘むように任意に操る必要があります。10年前には想像もできなかった、原子を一個ずつ任意に操るというこのような夢がいま現実のものとなりつつあります。世界に先駆けてその研究を本格的に開始した実績をもとに、原子一個の単位での物質・材料の究極的に精密な加工と制御の研究を進めます。具体的には走査トンネル顕微鏡(scannnig tunneling microscope:STM)の、原子スケールで鋭い探針の先端を、原子を操る指先として用います。予備的な実験の結果を下図に示します。左側の図は、探針の先端に供給した金原子を一個ずつ試料表面の任意の位置に付与した例です(明るい突起が個々の金原子)。中央の図はシリコン表面のダングリングボンドを全て水素原子の吸着によって飽和させた後、対角線の沿って水素原子を一個ずつ探針によって除去し、ダングリングボンドのワイヤーを形成した例です(輝線は再生したダングリングボンドの鎖)。この様な技術を組み合わせることによって、例えば単電子の動きを制御する新しい電子デバイスが構築できるでしょう。
右側の図は、シリコン表面に不可避的に存在する欠陥としてのシリコン原子空孔((a)の矢印)に探針からシリコン原子を一個ずつ付与してそれらを修復した((b)の十字印)例です。このように、原子スケールで完全な表面を創成することもできます。
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加工プロセスの計測と制御
大気圧・高周波プラズマの計測と制御
プラズマCVM、大気圧プラズマCVD等の大気圧・高周波プラズマプロセスを、完全表面の創成に応用するには、高い加工・成膜レートを達成し、プロセスに最適になるようにプラズマを制御する必要があります。そのためには、電界強度、荷電粒子密度、中性ラジカル密度等のプラズマの物理的な内部構造を明らかにしなければなりません。下図に示すように、本研究では、分光器と組合わせたストリークカメラを用い、大気圧・高周波プラズマの時空間分解発光分光計測を行なうとともに、計算機シミュレーションからプラズマ内部構造を解析し、プラズマ制御の可能性を探っています。
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Last revised on Mar. 25, 1998 by M. Nakano